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健康診断の結果を見て、AST 16、ALT 10——「基準値内です、問題ありません」と言われて安心する。

ところが精密栄養学の世界では、この「低さ」にこそ注目する。なぜなら、ASTやALTは肝臓が壊れたときに漏れ出す単なる「損傷マーカー」ではなく、アミノ酸を代謝する酵素そのものだからだ。そしてその酵素が働くには、ビタミンB6が絶対に必要になる。

「数値が低い」のに正常——健診マーカーの盲点

一般的な健康診断では、AST・ALTの上限だけが問題視される。高ければ肝炎や脂肪肝の疑い。でも「低すぎる」ことに対するコメントは、まずない。

ここに盲点がある。

検査項目一般基準値精密栄養学的理想値
AST(GOT)10〜40 U/L20〜22 U/L
ALT(GPT)5〜45 U/L20〜22 U/L
γ-GTP男性 80以下 / 女性 30以下20〜30 U/L
ALP38〜113 U/L62〜64 U/L

一般基準値の範囲内であっても、精密栄養学的理想値を大きく下回っているケースがある。基準値の「正常」は「臓器が壊れていない」を意味しているだけで、「代謝が最適に回っている」こととは別の話だ。

AST・ALTは「肝臓の損傷マーカー」ではなく代謝酵素

トランスアミナーゼの正体

AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)とALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)は、正式にはトランスアミナーゼと呼ばれる酵素群だ。

その仕事は、アミノ酸のアミノ基(-NH₂)を別の分子に転移させること。タンパク質の分解・合成サイクルの中核を担っている。

  • AST: アスパラギン酸 ⇄ オキサロ酢酸の変換を触媒
  • ALT: アラニン ⇄ ピルビン酸の変換を触媒

どちらも肝臓だけでなく、筋肉・心臓・脳など全身の細胞に存在する。血液検査で測っているのは、細胞から血中に放出された酵素の量だ。

ピリドキサールリン酸(PLP)が活性の鍵

ここが核心になる。トランスアミナーゼが触媒反応を行うには、ピリドキサールリン酸(PLP)——ビタミンB6の活性型——が補酵素として結合していなければならない。PLPは酵素タンパクとシッフ塩基を形成し、この結合があってはじめてアミノ基転移反応が進む。

つまり、こういうロジックが成り立つ。

  1. 体内のビタミンB6が不足する
  2. PLPの供給が減る
  3. トランスアミナーゼの酵素活性が低下する
  4. 血中に放出される活性酵素の量が減る
  5. 血液検査でAST・ALTが低く出る

検査値の低さは「肝臓が元気な証拠」ではなく、アミノ酸代謝を回すための材料が足りていないシグナルである可能性がある。

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γ-GTPとALPの低値が示す亜鉛・マグネシウム不足

AST・ALTだけではない。γ-GTPとALPにも同じ構造がある。

γ-GTP(γ-グルタミルトランスペプチダーゼ) は亜鉛を必要とする酵素で、グルタチオンの代謝やアミノ酸の細胞内取り込みに関わる。亜鉛が不足すると酵素活性が落ち、検査値も低くなる。

ALP(アルカリフォスファターゼ) は亜鉛2原子とマグネシウム1原子を活性中心に持つ金属酵素だ。骨代謝やリン酸基の脱離に関わり、亜鉛またはマグネシウムのどちらかが不足するだけで活性が低下する。

4つのマーカーがすべて精密栄養学的理想値を下回っているなら、それは単一の栄養素不足ではなく、ビタミンB6・亜鉛・マグネシウムという代謝に不可欠な微量栄養素の複合的な不足を示唆している。

マーカー主な補因子不足時の影響
ASTビタミンB6(PLP)アミノ酸代謝の低下
ALTビタミンB6(PLP)アラニン-ピルビン酸変換の低下
γ-GTP亜鉛グルタチオン代謝・アミノ酸取り込みの低下
ALP亜鉛 + マグネシウム骨代謝・リン酸代謝の低下

B6不足がヒスタミン分解を止める——アレルギーとの意外なつながり

ビタミンB6の役割はアミノ酸代謝だけにとどまらない。B6不足は、一見無関係に思えるアレルギー症状の悪化にもつながる。

体内でヒスタミンを分解する主要な経路の一つに、DAO(ジアミンオキシダーゼ) がある。DAOは腸管粘膜に多く存在し、食品由来のヒスタミンや体内で産生されたヒスタミンを分解する。このDAOが機能するには、ビタミンB6・銅・ビタミンCが補因子として必要だ。

B6が不足するとDAOの活性が低下し、ヒスタミンの分解が滞る。その結果:

  • 花粉症の症状が長引く・強く出る
  • 食後に原因不明の頭痛や鼻づまりが出る
  • 抗ヒスタミン薬が効きにくい

「毎年花粉症がひどくなっている気がする」という人は、花粉の量だけでなく、自分のヒスタミン処理能力が落ちている可能性も考えたい。AST・ALTの低値は、その処理能力低下の間接的な指標になりうる。

「満腹なのに微量栄養素が空っぽ」——現代の食環境と対策

カロリーは足りている。タンパク質もそこそこ摂れている。でもB6・亜鉛・マグネシウムが慢性的に不足している——これは外食・中食中心の食生活で起きやすい構造的な問題だ。

加工食品や精製食品は製造過程で微量栄養素が失われる。白米は玄米と比べてB6が約60%減少し、小麦粉も全粒粉から精白するとB6含量は約70%減る。外食のメニューは味とカロリーに最適化されており、微量栄養素の密度は高くない。

B6を効率的に補う食品

食品B6含有量(100gあたり)備考
鶏むね肉0.64 mg高タンパク・低脂質で汎用性が高い
マグロ赤身0.85 mg刺身で手軽に摂取可能
サーモン0.64 mgEPA/DHAも同時に補える
レバー(鶏)0.65 mg亜鉛・鉄・B12も豊富
バナナ0.38 mg間食として手軽
にんにく1.53 mg使用量は少ないが密度が高い
ピスタチオ1.22 mgマグネシウムも同時に補える

成人のB6推奨摂取量は1.2〜1.4 mg/日。鶏むね肉200gとバナナ1本で約1.6 mgになる。

注意点として、高タンパク食はB6の消費量を増やす。プロテインパウダーを日常的に使っている人は、タンパク質の摂取量に応じてB6の需要も高まることを覚えておきたい。

次回の血液検査で何を見るか

食事を改善したら、次の血液検査で以下の4項目の変化を追跡する。

  1. AST — 16→20以上に近づいているか
  2. ALT — 10→20以上に近づいているか
  3. γ-GTP — 20以上をキープしているか
  4. ALP — 60以上に回復しているか

数字の変化は、自分の代謝エンジンが再び回り始めた証拠になる。megulusの食事ログに日々の食事を記録し、血液検査の結果と照らし合わせることで、どの食品がどの数値に効いたのかを振り返ることができる。

参考文献

  • Leklem JE (1990) "Vitamin B-6: a status report." Journal of Nutrition, 120(Suppl 11), 1503–1507. PubMed
  • Ueland PM et al. (2015) "Inflammation, vitamin B6 and related pathways." Molecular Aspects of Medicine, 53, 10–27. PubMed
  • Maintz L & Novak N (2007) "Histamine and histamine intolerance." American Journal of Clinical Nutrition, 85(5), 1185–1196. PubMed
  • Millán JL (2006) "Alkaline Phosphatases: Structure, substrate specificity and functional relatedness to other members of a large superfamily of enzymes." Purinergic Signalling, 2(2), 335–341. PubMed

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