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腸活といえば「プロバイオティクス(善玉菌を摂る)」「プレバイオティクス(善玉菌のエサを摂る)」「ポストバイオティクス(菌が作る有益物質)」の3本柱が知られています。しかし、腸内細菌学の世界的権威である光岡知足博士が提唱した分類には、もう1つの柱があります。それがバイオジェニックスです。

バイオジェニックスの最大の特徴は、腸内フローラを経由せず、直接体に働きかけること。生きた菌が腸に届くかどうかを気にする必要がなく、安定した効果が期待できるアプローチです。

バイオジェニックスとは

バイオジェニックスは、東京大学名誉教授の光岡知足博士が2000年代に提唱した概念です。光岡博士は腸内細菌研究のパイオニアであり、善玉菌・悪玉菌という概念を世に広めた人物でもあります。

光岡博士による定義:

「腸内フローラを介することなく、直接宿主に対して免疫賦活、コレステロール低下、血圧降下、整腸作用、抗腫瘍効果、抗血栓、造血作用などの生体調節・生体防御・疾病予防・回復・老化制御などに働く食品成分」

つまり、プロバイオティクスやプレバイオティクスが腸内細菌を「仲介役」として機能するのに対し、バイオジェニックスは仲介なしで直接的に体に作用するという点が根本的に異なります。

4つのバイオティクスの比較

腸活に関わる4つの概念を整理します。

概念一言の定義代表例腸内フローラ経由主な作用
プロバイオティクス生きた善玉菌を摂るヨーグルト、キムチ、納豆はい腸内細菌叢の改善
プレバイオティクス善玉菌のエサを摂る食物繊維、オリゴ糖はい善玉菌の増殖促進
ポストバイオティクス菌が作った代謝産物短鎖脂肪酸間接的にはい腸粘膜バリア強化
バイオジェニックス菌体成分や分泌物を直接摂取乳酸菌生産物質、死菌体いいえ(直接作用)免疫賦活、抗炎症

ポストバイオティクスとの違い

バイオジェニックスは、ポストバイオティクスと混同されやすい概念です。

国際プロバイオティクス・プレバイオティクス学会(ISAPP)が2021年に定義したポストバイオティクスは「不活化微生物および/またはその成分で、宿主に健康上の利益をもたらすもの」です。バイオジェニックスと重複する部分は大きいですが、違いもあります。

ポストバイオティクス(ISAPP定義)バイオジェニックス(光岡分類)
起源微生物由来に限定微生物由来に限らない
範囲菌体成分 + 代謝産物菌体成分 + 代謝産物 + DHA/EPA、ポリフェノール等
学術的位置づけ国際的な合意定義日本発の独自分類

光岡分類のバイオジェニックスは、微生物由来でない食品成分(DHA/EPA、植物性ポリフェノールなど)も含むため、ポストバイオティクスよりスコープが広い概念です。

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バイオジェニックスの種類

乳酸菌生産物質

乳酸菌生産物質は、バイオジェニックスの中でも特に注目されている成分です。

複数の乳酸菌やビフィズス菌を共棲培養(一緒に培養)し、その過程で菌が産生する代謝産物の混合物を抽出したものです。菌そのものではなく、「菌が作り出した有用成分」を直接摂取するというアプローチです。

乳酸菌生産物質に含まれる主な成分:

成分働き
短鎖脂肪酸(酪酸、酢酸等)腸粘膜のエネルギー源、バリア機能強化
ビタミンB群エネルギー代謝の補助
アミノ酸タンパク質合成の材料
バクテリオシン有害菌の増殖抑制
細胞外多糖(EPS)免疫調整作用

死菌体(殺菌乳酸菌)

加熱殺菌された乳酸菌の菌体そのもの、あるいはその成分です。「死んだ菌に意味があるのか?」と思われがちですが、生死を問わず菌体の構造成分が免疫を刺激することがわかっています。

免疫刺激のメカニズム:

  • 菌体の細胞壁に含まれるペプチドグリカンリポタイコ酸が、免疫細胞表面の**Toll-like受容体(TLR2等)**を活性化
  • 自然免疫系のNK(ナチュラルキラー)細胞の活性が高まる
  • 腸管のIgA抗体の産生が促進される

代表的な死菌体素材:

菌株特徴
エンテロコッカス・フェカリス EC-12超高密度に加熱殺菌。NK細胞活性化の研究あり
ラクトバチルス・プランタルム L-137加熱処理後もIL-12産生を誘導
乳酸菌 FK-23免疫賦活作用に関する研究が豊富

その他のバイオジェニックス

光岡分類では、以下のような成分もバイオジェニックスに含まれます。ただし、これらは一般的には「機能性成分」として語られることが多く、バイオジェニックスとして意識する必要は必ずしもありません。

  • DHA / EPA:抗炎症作用、脳機能のサポート
  • 植物性ポリフェノール:抗酸化作用(カテキン、レスベラトロール等)
  • β-グルカン:免疫賦活作用(きのこ類、大麦に含有)

バイオジェニックスのメリット

従来のプロバイオティクス(生菌)と比較した場合の利点です。

メリット説明
安定性生菌と違い、胃酸・胆汁酸・温度変化に左右されない。保存・流通が容易
即効性腸内での定着・増殖を待たず、摂取後に直接作用し得る
再現性菌の生存率に依存しないため、製品ごとの品質のばらつきが小さい
免疫調整自然免疫(NK細胞活性化)と獲得免疫(IgA産生促進)の両方に作用するエビデンスあり

エビデンスの現状

バイオジェニックスの研究は進展していますが、誠実に言えばエビデンスはまだ発展途上です。

  • NK細胞活性化やIgA産生促進については、動物実験やヒトを対象とした小規模試験で有望な結果が得られている
  • 大規模なランダム化比較試験(RCT)はまだ限られている
  • 菌株や製造方法によって効果が異なるため、「バイオジェニックス全般に〇〇の効果がある」とは言い切れない

プロバイオティクスと同様、**「有望だが万能ではない」**という立場で取り入れるのが賢明です。

日常に取り入れる方法

まずは3本柱を固める

バイオジェニックスは腸活の「上乗せ」であり、基盤はあくまでプロバイオティクス+プレバイオティクスです。善玉菌を摂り、そのエサとなる食物繊維やオリゴ糖を十分に摂ったうえで、バイオジェニックスを追加するのが効果的です。

3本柱の具体的な食事・生活習慣については、腸活の基本の記事で詳しく解説しています。

発酵食品の加熱は無意味ではない

「味噌汁の味噌は加熱すると菌が死ぬから意味がない」——こう思っていませんか?

バイオジェニックスの観点では、加熱で菌が死んでも、死菌体として免疫を刺激する価値があることがわかります。味噌汁、加熱したキムチ鍋、煮込んだぬか漬けの料理——これらは生菌としてのプロバイオティクス効果は失われますが、バイオジェニックスとしての機能は残ります。

状態プロバイオティクス効果バイオジェニックス効果
非加熱の発酵食品あり(生菌が腸に届く)あり
加熱した発酵食品なし(菌が死滅)あり(死菌体が免疫を刺激)

つまり、発酵食品は加熱しても「無駄」にはならないということです。もちろん、非加熱で摂れるなら両方の恩恵を受けられるので、味噌は火を止めてから溶くのがベストですが、加熱調理に使うことに罪悪感を持つ必要はありません。

サプリメントの選び方

バイオジェニックスをサプリメントで取り入れる場合のポイントです。

乳酸菌生産物質サプリ

  • 使用菌株が明示されているものを選ぶ
  • 共棲培養の方法や培養期間が記載されていると信頼性が高い
  • 第三者機関による分析試験結果があるとなお良い

死菌体(殺菌乳酸菌)サプリ

  • 菌株名(EC-12、L-137など)が具体的に記載されているものを選ぶ
  • 含有菌体数が明記されているか確認
  • 加熱殺菌の製法が記載されているものが望ましい

どちらも、特定保健用食品(トクホ)機能性表示食品の認定を受けているものがあれば、エビデンスの裏付けとして参考になります。

データで腸活の効果を追跡する

バイオジェニックスの効果は即座に体感しにくいものです。だからこそ、日々のデータ記録が重要になります。

追跡すべき指標:

参考文献

  • Salminen S et al. (2021) "The ISAPP consensus statement on the definition and scope of postbiotics." Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology, 18(9), 649–667.
  • Nishida K et al. (2017) "Para-psychobiotic Lactobacillus gasseri CP2305 ameliorates stress-related symptoms and sleep quality." Journal of Applied Microbiology, 123(6), 1561–1570.
  • Kawai T & Akira S (2010) "The role of pattern-recognition receptors in innate immunity: update on Toll-like receptors." Nature Immunology, 11(5), 373–384.

あわせて読みたい:

  • グルテン・カゼインと腸の関係

  • 腸活の基本

  • 低血糖と自律神経

  • 食事内容:発酵食品の摂取頻度、加熱/非加熱の区別、サプリの摂取記録

  • 便通:頻度、形状(ブリストルスケール)の変化

  • 睡眠の質:腸内環境と深く相関する指標

  • 肌の状態:腸内環境の改善に伴い変化しやすい

  • 体調全般:疲労感、風邪の頻度など免疫の間接指標

megulus で食事と体調を記録し続けることで、「乳酸菌生産物質を摂り始めてから風邪を引きにくくなった」「死菌体サプリを追加した週は便通が安定した」といった自分だけのパターンを発見できます。エビデンスが発展途上だからこそ、自分の体で効果を検証するアプローチが有効です。