体重計の数字は目標に届いた。体脂肪率も下がった。数字の上では、何ひとつ失敗していない。それなのに、久しぶりに撮った写真を見て手が止まる——頬の丸みが消え、目の下がくぼみ、口元の線が深くなっている。髪も以前ほどまとまらない。

数字は成功で、鏡は失敗。この乖離を「気のせい」や「贅沢な悩み」で片づけると、次の減量でも同じことが起きます。実際にはここで起きているのは、測っていた指標が、変化していた実体をとらえていなかったという測定の問題です。

40代を境に、痩せることの意味が変わる

見た目の老化を語るとき、ふつうは紫外線や喫煙が挙げられます。ところが一卵性双生児186組を対象にした研究では、それらと並んで体格そのものが見た目年齢を大きく動かす因子として報告されました。

興味深いのは、その効き方が年齢で反転することです。BMIが4ポイント高いことは、40歳未満では「より老けて見える」方向に働きます。ところが40歳を過ぎると、同じ4ポイント差が今度は「より若く見える」方向に働きました。遺伝的背景が同一の双子どうしを比べているので、これは体質差では説明できません。

つまり、同じ「10kg痩せる」という行為が、30代では若返りとして現れ、40代以降では老けとして現れうる。減量が失敗したのではなく、年齢によって減量の見た目への出方が変わるというのが、まず押さえるべき前提です。

なぜ反転するのか。顔の皮下脂肪は、のっぺりと一枚で乗っているわけではありません。解剖学的な研究によって、頬の内側・中央・外側、ほうれい線の内側、目の下といった具合に、**隔壁で仕切られた独立した区画(コンパートメント)**として配置されていることが分かっています。

若い顔が滑らかに見えるのは、これらの区画が互いに同じ高さで満たされ、境目が見えないからです。全身の体脂肪が減ると各区画も薄くなりますが、減り方は均一ではありません。ある区画だけが先にへこむと、隣との段差が生まれ、それが影として現れます。頬のこけ、目の下のくぼみ、口元の線——これらは新しくできたシワではなく、もともとあった境界線が浮き上がってきたものです。

そして、皮膚は脂肪ほど速く縮みません。中身が減った分の表面積が余り、下方向に落ちます。若い顔の土台が痩せ、そこに余った皮膚がかぶさる。この2つが同時に進むと、体重が減るほど顔の陰影は強くなります。

「顔の問題」ではなく、全身の除脂肪組織の問題

ここまでは顔の話ですが、実際に起きていたことは全身に及んでいます。

エネルギー不足の状態では、体は体脂肪だけを選んで削るわけではありません。減量時の身体組成の変化をまとめたレビューによれば、食事制限による減量では、減った体重のうち相当な割合が除脂肪組織(筋肉、内臓、骨、皮膚やその支持組織を含む)で占められることが繰り返し確認されています。割合は方法や条件で幅がありますが、「脂肪だけがきれいに減る」という前提が成り立たないことは一貫しています。

顔の質感を支えているのも、この除脂肪組織の一部です。真皮のコラーゲンやエラスチン、頬を支える表情筋、皮膚の弾力や保水を担うたんぱく質——いずれも、たんぱく質とエネルギーが足りている前提で維持されています。

だからこそ、「顔だけ元に戻す」という発想はうまくいきません。顔に出ているのは、全身で起きた除脂肪組織の減少が、もっとも隠しようのない場所に表示されているだけだからです。表示を消しても、元のデータは変わりません。

LINE

読みながら、自分の数値と照らしてみませんか

LINEで受け取る

髪の変化は2〜3か月遅れて届く

顔と並んで気づかれやすいのが髪です。そして髪には、原因と結果の間に時間差があるという厄介な性質があります。

急激なカロリー制限を行った人を追った古典的な報告では、減量プログラムの開始から2〜5か月後に明らかな抜け毛が生じ、休止期に入った毛の割合が正常の数倍に達していました。髪はその後、数か月かけて回復しています。

これは休止期脱毛(telogen effluvium)と呼ばれる現象です。毛包はエネルギー供給が細ると、成長期を切り上げて休止期に移行します。ただし休止期に入った毛はすぐには抜けず、数か月そのまま留まってから脱落する。だから抜け毛や質感の変化に気づく頃には、引き金となった食事の時期はとっくに過ぎているわけです。

この時間差が、原因の特定を難しくします。「食事はもう戻したのに、今になって髪が悪化している」という状況は、矛盾ではなく仕様です。逆に言えば、回復も同じだけ遅れて現れます。栄養状態を整えてから見た目に反映されるまで、数か月は見込んでおく必要があります。

栄養面では、鉄・亜鉛・たんぱく質が同時に不足しやすい組み合わせです。減量中は赤身肉の摂取量が真っ先に落ちるため、この3つがまとめて減ります。鉄については、ヘモグロビンが基準内でも貯蔵鉄が枯れていることがあるため、確認するならフェリチンを見ます。ただし、鉄を補えば必ず解決するとは限らないことも報告されているので、まず採血で不足の有無を確かめてから補正するのが順序として合理的です。

抜け毛が半年以上続く、髪の一部だけが円形に抜ける、月経が止まる、強い倦怠感が続く——これらは減量の副作用の範囲を超えている可能性があります。自己判断で栄養を足す前に、医師に相談してください。

設計し直す3つのつまみ

「老けない減量」というものが別に存在するわけではありません。調整できるのは3つで、しかもこの3つは全部同じ方向を向いています。

1. たんぱく質量。 減量中は、維持期よりも多く必要になります。エネルギーが不足している状態では、たんぱく質の一部が燃料として消費されてしまうためです。目安は体重1kgあたり1.2〜1.6g/日。体重60kgなら72〜96gで、これは意識して配分しないとまず届きません。

高たんぱく質の効果を検証した無作為化試験では、大きなエネルギー不足下で高強度の運動を併用した条件において、たんぱく質を多く摂った群のほうが除脂肪量と体脂肪量の両方で良好な結果を示しました。ただしこの試験は若年男性を対象に4週間という短期間で行われたもので、摂取量も極端です。一般の減量にそのまま適用する数字ではなく、「エネルギー不足が大きいほど、たんぱく質の重要性が上がる」という方向性として読むのが適切です。

2. 減量ペース。 速く落とすほど、体は除脂肪組織を燃料として動員しやすくなります。目安は週あたり体重の0.5〜1%。体重60kgなら週300〜600gです。半年で1割前後の減量は、この範囲の上限付近にあたります。「無茶な絶食をしたわけではない」という感覚と、体の側の判断が食い違うのはこのあたりです。

3. 運動の内容。 ここが見落とされやすい点です。「定期的にジムに通っていた」ことと「除脂肪組織を守る刺激が入っていた」ことは、同じではありません。有酸素運動はエネルギー消費を増やしますが、筋肉に「この組織は必要だから残せ」という信号を送るのは、負荷をかけて短縮させる運動、つまりレジスタンストレーニングのほうです。

同じ時間ジムにいても、トレッドミルに乗っていたのか、重量を漸増させていたのかで、減った体重の中身は変わります。減量中は筋肉を増やすことよりも、減る速度を落とすことが目的になります。種目数を増やす必要はなく、下半身・押す・引くの3方向をカバーして、扱う重量か回数を少しずつ上げていければ十分です。

今からでも取り戻せるか

脂肪組織そのものは、体重を戻せば顔にも戻ります。ただし、それは望んでいる解決ではないはずです。

現実的に取り戻せるのは次の3つです。

  • 除脂肪量。レジスタンストレーニングとたんぱく質の確保を続ければ、月単位で戻せます。顔の支持組織や表情筋もこの範疇です
  • 栄養状態に由来する質感。鉄・亜鉛・たんぱく質の不足があれば、補正から数か月で髪と皮膚に反映されます
  • 皮膚の余り。時間をかけて多少は追いつきますが、脂肪や筋肉ほど戻りません。減量幅と年齢によっては、完全には戻らないと考えたほうが計画が立てやすくなります

一方で、いま体重を維持したまま除脂肪量を積み直す局面では、体重計の数字は下がらないどころか少し増えます。これを「リバウンドした」と読み違えて食事を絞ると、また同じ場所に戻ります。この時期に見るべき指標は体重ではありません。

megulusでの使い方

この問題の本質は、成功の判定に使っていた指標が粗すぎたことです。体重は「何がどれだけ減ったか」を区別しません。

megulusでは、体重を体組成や食事の記録と並べて見ることができます。減量期に見ておきたいのは、体重が何kg落ちたかではなく、同じ期間に除脂肪量がどう動いたか、そしてたんぱく質を摂れた日がどのくらいの頻度であったかです。体重が順調に落ちているのに除脂肪量が並走して落ちているなら、それは目標に近づいているのではなく、支持組織を削って数字を作っている状態です。この2本の線が離れているか重なっているかは、月単位で並べれば一目で分かります。

髪や肌の変化には数か月の時間差があるため、記録がないと原因の時期を特定できません。食事の記録に加えて、体調や見た目の変化に気づいた日をメモとして残しておくと、あとから「いつの食事が効いていたのか」を逆算できます。感覚では結びつかない2〜3か月離れた出来事を、記録だけが結びつけてくれます。

参考文献

  • Guyuron B, Rowe DJ, Weinfeld AB, Eshraghi Y, Fathi A, Iamphongsai S. Factors contributing to the facial aging of identical twins. Plastic and Reconstructive Surgery. 2009;123(4):1321-1331.
  • Rohrich RJ, Pessa JE. The fat compartments of the face: anatomy and clinical implications for cosmetic surgery. Plastic and Reconstructive Surgery. 2007;119(7):2219-2227.
  • Cava E, Yeat NC, Mittendorfer B. Preserving healthy muscle during weight loss. Advances in Nutrition. 2017;8(3):511-519.
  • Longland TM, Oikawa SY, Mitchell CJ, Devries MC, Phillips SM. Higher compared with lower dietary protein during an energy deficit combined with intense exercise promotes greater lean mass gain and fat mass loss: a randomized trial. The American Journal of Clinical Nutrition. 2016;103(3):738-746.
  • Goette DK, Odom RB. Alopecia in crash dieters. JAMA. 1976;235(24):2622-2623.

あわせて読みたい:

あなたの数値の、いまの位置を1枚で見る。

サンプルレポート(無料・約10分で読める)を公開しています。血液・睡眠・心拍の「横断」ではなく、自分の縦断データから何が読めるかの見本です。

続きが欲しければ、LINEで「レポート希望」と送ってください。無料モニター枠の案内を返します。

※ アカウント作成やカウンセリング予約は不要です。まずレポート1本から。